貞子VS伽椰子ネタバレ感想 ホラージャンルに留まらないエンタメ傑作映画
貞子VS伽椰子、公開当時自分のTLでも話題になり、気になるな~と思いながら見に行けなかったこの映画。
それがアマゾンプライム会員特典に追加されたという噂を聞き、そろそろホラーを見る気分になったので見てみました。
めちゃくちゃおもしろかったです。
以下あらすじ。映画の物語全部書いてるから注意ね。
あらすじ
大学生の夏美は、ひょんなことから、友人である優里が再生した呪いのビデオを見てしまう。
呪いのビデオを見た者は二日以内に死ぬ。呪いを解くため、大学の講師であり都市伝説研究家の森繁教授の元を訪れる二人。
森繁教授は貞子にあいてえという一心で呪いのビデオを鑑賞し、結果ビデオは本物だと確信。
森繁は霊能力者である法柳に連絡を取り、夏美の除霊を依頼する。
法柳の持つ神社に招かれ、除霊を受ける夏美。最強の悪霊、貞子を呼び出すことに成功する法柳だが、貞子の力は彼女の想像を遥かに超えていた。
貞子は法柳の弟子、そして彼女を止めようとした森繁全員を殺害し、除霊は失敗に終わる。
優里は友人である夏美を助けるため、森繁の著書に記されていた呪いを解く方法の一つ『他人にビデオを見せる』という方法を実行させる。
夏美からビデオを手渡してもらい、自らビデオを見て呪いを受ける優里。
貞子からの電話がかかり、部屋の中に異音が鳴り響く。
そこへ、法柳が死に際に貞子を倒せるのは奴だけだとまで評した、霊能力者常盤経蔵、そしてその相棒である玉緒が現れる。
「貞子、会ってみたかったんだ。ちょっと出てこい。来いよ!」
啖呵を切り、貞子に操られかける夏美を一瞬で鎮める経蔵。呪われた二人に、僅かな希望が見えてくる。
優里からどうやって呪いを解くつもりなのか、と尋ねられた経蔵は、こう答える。
「バケモンには、バケモンをぶつけんだよ……!」
一方その頃。家族の事情で見知らぬ土地へ越してきた女子高生の鈴花は、引っ越し初日、隣の家から不穏な気配を感じる。
同級生の話によると、そこは足を踏み入れたら最後生きては出られないという呪われた家だった。
警告どおり家には近づかないようにしていた鈴花だったが、次第に自分が呪いの家にいる場面や、幼子の悪霊を夢に見るようになっていく。
小学生四人が呪いの家の前で消息を絶ったのを知り、呪いの力を信じるようになる鈴花。
そこへ、件の霊能力者経蔵と玉緒が現れる。そう、彼らが貞子とぶつけると言っていたもう一人のバケモノ、それこそが呪いの家に棲む悪霊、伽椰子なのだ。
下見を終え、これならば呪いを解決できると感じた経蔵と玉緒。
しかし彼らが居ない間に、夏美が貞子への恐怖と死への絶望から呪いのビデオを動画サイトにアップロードしてしまう。
世界中に貞子の呪いが広がっていく……なか、夏美は優里に迫る。
「私は呪い殺されるのは嫌、一緒に死のう優里。皆は呪いで死ぬけど、私たちは自分で死ぬの!一緒に死のう優里!」
そう言い、自ら死を選ぼうとする夏美。しかし、夏美が命を断とうとしたその瞬間、眼前に貞子が現れる。
呪った相手は絶対に自分の手で殺す!
呪殺の邪魔をした者は皆殺しにする。貞子の特性は、たとえ自ら死のうとしても発揮されるのだ。
貞子さえ殺せば、呪いの広がりを止められるかもしれない。
世界を守るため、伽椰子宅へ向かう経蔵、玉緒、優里。
途中、呪いの家へ足を踏み入れてしまった鈴花も加え、パーティは四人に。
経蔵の作戦はこうだ。
貞子に呪われた優里は呪いの家へ足を踏み入れることで伽倻子に呪われ、
伽椰子に呪われている鈴花は家の中で呪いのビデオを見ることで貞子に呪われる。
獲物を取り合った貞子と伽椰子の呪いの力は激突し、お互いを対消滅させる……!
指示通り呪いの家へ足を踏み入れ、呪いのビデオを鑑賞する二人。
現れる貞子と伽椰子……!
ホラー界最強の二人の戦いの火蓋が、遂に切って落とされる!
貞子によって爆発四散する伽椰子。しかし伽椰子も負けては居ない。
家の中ならばどこからでも現れる……たとえ一度破壊されても!リポップして再び貞子に襲いかかる伽椰子!
「どっちも消えねえ!外に出てこい、失敗だ!」
家へと入り、ビデオを囮に伽倻子と貞子を外へおびき出す経蔵。
予め用意しておいた井戸に、伽椰子と貞子を封じ込めるのだ。
二人の呪いをその身に宿し、井戸へと身を投じる優里。呪いの余波から玉緒と鈴花を守るため、身を挺して盾となる経蔵。そして、優里を追い井戸へと飛び込む貞子と伽椰子。
最後に残った鈴花が井戸へ蓋をし、伽椰子と貞子、最強のバケモノは遂に封印されたと思われた……
しかし、再び井戸の中から異音が。
「混ざり合ってる……!」
怯える玉緒。破壊される封印!そして出てきたのは……!
言葉通り融合し、貞子と伽椰子二人の特徴を持った新たなモンスターだった……!
絶叫する鈴花と玉緒、そして新たなモンスター貞伽椰の顔がアップで映し出され、エンドロール。
世界へ広がった呪いを解くこともできず、主人公チームは全滅。
最後にパワーアップした呪いのビデオが流れ、バッドエンドでこの映画は幕を閉じる。
感想
この映画を見る前、私のTLでは「さだかやは百合映画だ!」とか、「いいや能力バトル物だよ!」だとか、はたまた「さだかやは劇場版仮面ライダー」などの感想が見受けられた。
こいつらは何を言っているんだろう……と思うような意見もあったが、まさかそれら全てが真実だとは思わなかった。
優里と夏美の関係は間違いなく百合だし、二人の女性の行く末を巡って戦う貞子と伽椰子の関係も、見ようによっては百合だろう。
貞子、伽椰子の最終決戦。お互いのルーツの違いから異なる怪異、そして強さで相手を破滅させようとする様は確かに能力バトルと言っても差し支えない。
主人公チーム四人が伽椰子の家へ向かうシーンの絵面は確かに劇場版仮面ライダーに通じるところがあった。
まあ何を言っているのかと私の正気まで疑われそうだが、とにかくそれだけ、この映画には「人を楽しませよう」とする要素が多いのだ。
正直なことを言うと私はホラー映画と言うものがあまり好きではない。幽霊、と言うものが嫌いだというのも多分に有るが、それ以上に
「とにかくお前らを怖がらせればいいんだろう?」という作り手の態度が嫌いなのだ。
いや、人を怖がらせるのがホラー映画の目的だというのは重々理解している。
単に私のような人間に向けて作っているものではないのだろう、悪いのは彼らではなく楽しめない私の方だ。
しかし、とりあえず呪いで人を殺して登場人物を怖がらせ、
怪異がやってくるまでやたらと長い間があり、ドーンと不意打ち気味にドアップの死体や幽霊の顔を写しておけばOK。
デロデロとした音楽を前編流し、ここぞという所で大音量の衝撃音でビビらせる。
演出にこだわりすぎているせいでストーリーは単調でスカスカ。登場人物の動き方も合理性を欠いている。幽霊に関しても、理不尽な存在でさっぱり理解が及ばない。
そういった映画が、何故かホラーだからと許されているような風潮を、どうしても感じてしまうのだ。
しかし、この映画にはそういった甘えや妥協は一切ない。先程言った通り、ホラー、恐怖を演出するだけでなく、質の高いエンタメを提供しようという意識が随所から感じられる。
最もわかりやすいのは、キャラクターの立て方だろう。
例えば、主人公たちに呪いのビデオの存在を教え、その後呪いを解く鍵をもたらしてくれる森繁教授。
通常の作品であれば、彼は主人公周りで現れる最初の犠牲者として、呪いの力に恐怖しながら無様に死んでいくだけのキャラだろう。
しかし、今作では森繁教授は貞子を偏執的に愛し、彼女を見れるなら死ぬことすら恐れないという、超変態的キャラクターとして描写されている。
ストーリーに理解が及ばなくとも、彼が呪いのビデオを受け取ってからの一連の言動のおかしさを見れば、それだけで視聴者は笑みを浮かべてしまうはずだ。
キャラクターの特徴は更に細かい端役にも与えられている。
主人公の一人鈴花に呪いの家の情報を与える女子高生の仲間。彼女は時折言葉に詰まり、タロット占いを好んでいるなど根暗キャラクターとして軽いキャラクター付けがされている。
優里と夏美が呪いのビデオを見るきっかけとなったビデオ屋のアルバイターも、ひと目見ただけで軽率に人に害を及ぼす性格の曲がった無自覚な悪女であることが解る。
こういったキャラクターへの作り込みがあるお陰で、単純な状況説明や雰囲気を出すだけのシーンを見ていても、退屈するということがない。
今挙げた端役への特徴付けは、ハリウッド映画にもよく見られる特徴だ。最近見た映画だとアントマンの冒頭部分にも近い演出が有る。
主人公スコットラングが刑務所から出所し、アイスクリーム屋で働く場面。
ここで彼に注文を行う子役がいるのだが、それが一瞬で「こいつは凄まじい愚か者だ」と伝わってくるデザインをしている。
言動もピッタリだ。
彼はチーズバーガーを頼み、ハンバーガー屋は隣だというと、今度は「熱いものならなんでもいいよ」と舐めた注文をラングに行う。
これにはラングも口調が荒くなる。観客はもちろん大笑いだ。
スコットが仕事に馴染めないということを描写するためのシーンなのだが、特徴あるキャラを投入することで笑いを取っている。
森繁教授のキャラクター付けと同じテクニックが使われていることが解るだろう。
話の転がし方も見事だ。
前半全てを貞子と伽椰子の激突へ向けた前フリとして機能させ、二体の脅威を煽る煽る。
同時に、随所随所で貞子、そして伽椰子の施す「呪いのルール」のようなものも描写していく。
呪いのビデオを見た者は二日後に死ぬ。
邪魔者は始末される。
自殺しようとしても先に貞子が殺しに来る。
呪いの家に足を踏み入れたものも死ぬ。
家に足を踏み入れてから死ぬまでは時間差がある。
悪霊たちは理不尽な存在では有るのだが、決してただ適当に暴れて人を殺すだけの存在ではない。
彼らは彼らの定めた境界の中で怪異を働く存在なのだ、という事実が、視聴者にもわかりやすいようになっているのだ。
霊能者である経蔵も彼らのルールを理解している。彼らのことを甘く見ることなく、不用意にビデオを眼にしたり、呪いの家に足を踏み入れるようなことはしない。
そして今挙げた要素全てが、クライマックス、そしてラストのシーンで遺憾なく生かされているのだ。
貞子と伽椰子が融合するというのは一見突拍子もないように感じるが、上記のルールに照らし合わせれば不自然さはない。
家に踏み入れたものは伽椰子が殺す。ビデオを見た者は貞子が殺す。
では、お互いがお互いを滅することができず、両方の条件を満たした者を殺したい時はどうすればいいのだろう?
そう、貞子と伽椰子二人で一人を殺せばいいのだ。その方法が融合だった。どちらかが消える、両方が消えるという結果より、理に叶っている。
他にも、ラストに繋がる数々の伏線が物語にはいくつも配置されている。見逃せないのはキャラクターに関する伏線だ。
夏美は自暴自棄になり呪いのビデオを世界に流してしまうが、それ以前のシーンで森繁教授がネットでの拡散について言及していたり。
また、初めて森繁教授に相談を持ちかけるシーンでは、夏美が「呪われるくらいなら死にたい」と、後々自殺を試みることをほのめかす言動もある。
他人のために命を張るという優里の性格も全編渡って何度か描写されていたり……
と、こういった数々の伏線は死に際でのキャラクター達の動きに繋がり、その魅力を一層際立てている。
繰り返し見れば、恐らくまた新たな発見があるはずだ。
このように、今作では怖がらせるというホラーの味に、キャラクター物の楽しさや、脚本の流れを追うという楽しさが加わっている
だからこそ今回のような絶望的なラストでもすんなりと受け止めて楽しむことができるのではないだろうか。
ジャンルとしてはホラー。だが、それだけに留まらない魅力が、この映画には詰まっている。
ホラーが苦手という人も、百合、能力バトル、そして仮面ライダーどれかが好きなら、一度見てもらいたい作品だ。
同じく白石さんが監督した映画『カルト』も同じように、様々な楽しさが詰まった作品なので、まだ見ていない人はそちらの方もご一緒に是非。では。