アメリカン・ジゴロネタバレ感想
今日見たのは1980年代のアメリカ映画、アメリカン・ジゴロ。例によってアマゾンプライム特典で無料です。
監督はポール・シュレイダー、男娼である主役ジュリアンを演じるのは、まーこの頃は若い若いリチャード・ギアさんです
アメリカンなのにジゴロ、なんだかミスマッチな語感だなあ、娯楽系の映画なのかな?と思いながら見たら、とんでもなく静かで渋い映画でした。
ささっとあらすじを書いて、早速感想に移りたいと思います。
あらすじ
セレブ専門の男娼、主人公ジュリアン。
彼は人気があるからとリオンと、二人の仲介人の間を行き来し、同性愛者を見下し、仕事にも注文をつけまくる難のある男だった。
彼はある日、仕事の為にミシェルという女性とホテルのバーで会話する。
だが、ミシェルは客ではなく、しかも上院議員の妻というとんでもない大物だった。
人違いだったと気づきその場を去るジュリアンだったが、ミシェルは彼に恋をしていた。
ジュリアンの仕事を知りながら彼に迫り、関係を持ち始める二人。
一方その頃。かつてジュリアンに仕事を依頼した、ライマンの妻が殺害された。
ジュリアンはその濡れ衣を被せられ、警察に追われてしまう。
客や仕事仲間に助けを求めるも、誰も彼の頼みを聞いてくれるものはいない。
ジュリアンは疑いを払い、無実を証明することができるのだろうか。
感想
正直メチャクチャ感想が書きにくいですねこの映画。
最初に書いた通りこの映画は静かで、派手な演出等もない。淡々と事実だけが見せられていくような映画です。ストーリーにも激しい起伏などはないし……
でも面白いんですよね。静かだからこその染み入るような面白さがあると言いますか……魅力が伝えにくい映画であるような気がします。
わかりやすい見どころというとやはり若かりし頃のリチャード・ギアさんが見れるところでしょうか。それも超セクシーな。
彼が演じるジュリアンがほんとかっこいいんですよ。
ジュリアンは地味めなスーツで着飾っており、男娼というよりビジネスマンか何かのように見えるのですが、なんと言いますかね。立ち振舞が優雅で色っぽくて。
あ、この人は男娼ではなく高級男娼なんだな、と言うのが長々と説明されなくてもすっと認識できる。
まあ本物の高級男娼なんて見たことないんですけど。兎に角そう納得させられてしまうような雰囲気が演技から出てるんです。
本人も高級男娼であることに誇りを持っている事が伝わってくるのもいいですね。
紹介人であるリオンとのやり取りからもそうですし、身体と知識の鍛錬を怠らない所もそう。
決定的なのはヒロインであるミシェルに
「なぜおば様ばかりを相手にするのか」
と尋ねられるシーンでしょう。
「女子高生を塗らしたいなら映画の一本でも見れば十分だ。だがマダム達は違う」
「この前の客は三時間かけてようやく濡れてくれた。終わった後の充足感には何かあった。僕の他に、誰がこんなことができる?」
めっちゃかっこいいですよね。自分の技と仕事に自信を持っているからこそ言える言葉だと思います。
彼が法に触れてまで男娼をやるのは金のためだけではない……どんな仕事であれ、誇りを持っている人間はそれだけで惹かれてしまいます。
しかしそんな彼にも落ち目の時が。ライアンの妻を殺した罪を被せられてしまうんですね。
ここからの、高級とは言えやはり男娼という職業の悲しい一面が浮き彫りになっていく流れも綺麗で。
主人公、ジュリアンの感情を描く力がとても高いと思います。
警察から当日のアリバイを尋ねられ、その日は客と寝ていた、と真実を語っても相手のマダムは絶対に認めてくれません。
所詮一夜限りの関係であるジュリアンに、身を切ってまで尽くしてやる義理などないのです。
仲介人の二人も扱いづらいジュリアンを助けようとはしません。
クールで余裕のあった彼も、次第に追い詰められていきます。
このあたりの……ジュリアンには同情しますが、同時に「仕方ない」と思えてしまうような見せ方がなんとも物悲しいです。
やがて彼が殺したという証拠も見つかり、ジュリアンが完全に嵌められたとわかります。
一体誰がジュリアンを嵌めたのか?仲介人の二人?それとも客だったライマン?はたまた浮気を知った上院議員か。
このあたりの真実が見えない、皆疑ってしまうような情報の出し方が視聴者とジュリアンの不安を結びつけてくれます。
だからこそ一貫して味方をしてくれるミシェルがかわいくて仕方ないと言いますか。
彼女も夫人、お年ではあるんですけど……いいヒロインやってるなあと思うわけですよ。
途中夫から関係を断てと言われても、ジュリアンが本格的に警察に追われることになっても、彼に会いに来る。
最後には逮捕されたジュリアンを助けるため、弁護士を雇い、夫との関係も顧みず彼と当日寝ていたのは私だと証言する献身的な愛を見せ、ジュリアンの無実を勝ち取るんですが……
ここの演出がまたぐっと来ます。派手な効果音は何もなし。静かな面会室の中でジュリアンに愛を伝えるミシェル。
「僕がずっと探していたのは君だったのか」と、ガラス越しにミシェルの手により掛かるジュリアン。少しずつ大きくなっていくエンディング曲。そしてエンドロール。
劇的な演出ではないのですが、中盤終盤、身体を重ねながらもジュリアンの為に身を切る人間は居ない。彼のことを愛していた人間は誰も居なかった。
という事実を延々見せつけられてからのこのシーンなので、特別なことをしなくても彼の心の動きがこっちにも伝わってくるんですよね。
付け足すだけが演出ではないと言いますか……最後まで渋くまとめる、映画を象徴するような素晴らしいラストです。
派手なアクション映画に疲れていたり、いつもとは少し雰囲気の違う大人な映画が見たくなったら是非。
人によっては退屈だと感じてしまうかもしれませんが……この雰囲気が肌にあえば絶対楽しめますよ。